群馬県前橋市を拠点にキッチンカーで営業する「天然たい焼き・愛茶屋」は、56歳の吉田正子さんが切り盛りするたい焼き店です。幼少期の祖母との思い出を胸に、吉田さんが一念発起し始めたこの店では、鋳物の型を使った伝統的な一丁焼きのたい焼きを提供しています。
「天然たい焼き・愛茶屋」祖母との思い出が原点
吉田さんがたい焼き店を始めるきっかけは、幼少期に祖母が縁日帰りに買ってくれたたい焼きの記憶です。温かな香りと味は、忙しい日々の中でも心を癒してくれる特別な存在でした。小さな茶色い包み紙を開けるたび、たい焼きの形と香ばしい香りが広がり、幼い心をワクワクさせてくれたその感動を、吉田さんは今も鮮明に覚えています。
50代半ばで迎えた人生の転機に、彼女はその味を再現し、人々に笑顔を届けたいと思い立ちます。東京の老舗たい焼き店で修行を重ね、一丁焼きの技術を学びました。「カチャカチャ」という鋳型を扱う音と共に、一枚一枚丁寧に焼き上げる一丁焼き。この製法は、焼き加減を繊細に調整し、たい焼きの薄皮を香ばしく仕上げるのが特徴です。そこには祖母への感謝と、温かい思い出を次の世代に伝えたいという願いが込められています。
「天然たい焼き・愛茶屋」の魅力
パリッと香ばしい薄皮とたっぷりのあんこ
「天然たい焼き・愛茶屋」のたい焼きは、外側はパリッと香ばしく、中には北海道産小豆を使った甘さ控えめのあんこがたっぷり詰まっています。その美味しさは、常連客から「尻尾の先までぎっしり」と絶賛されるほど。焼き型からはみ出した「バリ」部分も人気で、香ばしいおやつとして好評です。
特に、薄皮の食感は「カリッと香ばしい」と評判で、一丁焼きならではの技術の賜物です。一枚一枚丁寧に焼き上げられたたい焼きは、その場で焼き立てを頬張る瞬間に至福の時間を与えてくれます。
素材へのこだわり
生地には群馬県産の無農薬地粉を使用し、独自の配合で香ばしさを引き立てています。あんこは、十勝産小豆を使用し、じっくりと炊き上げることで、粒立ちと甘さのバランスが絶妙な仕上がりに。隠し味には地元の味噌と醤油が加わり、風味豊かな発酵あんこが完成します。
吉田さんは「素材の良さこそが味の決め手」と語り、地元の食材を積極的に使用することで地域とのつながりも大切にしています。この姿勢は、たい焼きを通じて地域の活性化を目指す吉田さんの情熱を表しています。
一丁焼きへの想い
一丁焼きとは、鋳物の焼き型を使い、一枚ずつ丁寧に焼き上げる伝統製法。手間がかかるため大量生産には向きませんが、その分、職人の技術と心が詰まった特別な一匹が生まれます。
「養殖もの」と呼ばれる量産型とは一線を画し、「天然もの」と称される一丁焼きは、薄皮と香ばしさが際立つ味わいです。吉田さんはこの製法にこだわり、ひと口で心温まる体験を提供したいと考えています。その過程では、焼き型の温度や生地の厚み、あんこの量など、すべての工程に細心の注意を払いながら焼き上げる努力が欠かせません。
挑戦と支え合いの物語
家族との絆と葛藤
たい焼き屋を始めたいと決意した吉田さんに、父の勝吉さんは猛反対しました。「親子の縁を切る！」とまで言われましたが、たい焼きに込める思いを伝え続けた結果、今では両親も応援してくれるようになり、店に足を運ぶ常連客となっています。
この過程で、家族との対話や葛藤があったものの、それを乗り越えた先に笑顔を共有できる日常が待っていました。両親が焼き立てのたい焼きを頬張る姿は、吉田さんにとって何よりの励みとなっています。
クラウドファンディングで実現
開業資金はクラウドファンディングで調達。吉田さんの情熱が支持を集め、目標の倍以上となる230万円を集めました。「愛茶屋」という店名には、支援してくれた方々への感謝の気持ちが込められています。支援者の声には「応援したい」「吉田さんの情熱に心を打たれた」というコメントが多く、たい焼きへの愛と地域への思いがしっかりと伝わったことがうかがえます。
「愛茶屋」のこれから
現在、「天然たい焼き・愛茶屋」は高崎市内のスーパーや県内イベントで出店中。Instagramを活用し、出店場所や予約方法を随時発信しています。固定店舗を持たないキッチンカーの利点を活かし、県内各地で人々と笑顔をつなぐたい焼きを届けています。
出店先では、「キッチンカーを見ると嬉しくなる」「待ち時間もワクワクする」といった声が聞かれることもしばしば。たい焼きが焼き上がる香りに惹かれ、列を作る人々の中にはリピーターも少なくありません。
吉田さんは、未来を担う子どもたちにたい焼きを通じて伝統と温もりを伝えたいと考えています。将来的には幼稚園やこども食堂でボランティア活動を行い、一丁焼き体験プランを提供するなど、地域に根ざした活動を目指しています。これにより、たい焼きの文化を次世代に継承し、人と人とを結びつける架け橋となることを目指しています。
吉田さんの夢は、ただたい焼きを販売するだけではありません。たい焼きを通じて笑顔を届け、地域に貢献し、人々がつながる温かなコミュニティを作ることです。彼女のキッチンカーが群馬の街を駆け抜けるたび、その笑顔の輪はさらに広がっていくでしょう。
「天然たい焼き・愛茶屋」のたい焼きは、ひと口食べれば心が温まる絶品です。群馬で唯一の一丁焼きたい焼きを味わいに、ぜひキッチンカーを訪れてみてください。吉田正子さんの挑戦とたい焼きへの愛が、きっと笑顔を届けてくれるでしょう。その一匹に込められた思いをぜひご堪能ください。
